大正期から昭和初期にかけて、困窮した華族(旧公家・大名家)、政治家、寺社、「有名人」などが所有していた道具類を処分する、売り立て(オークション)が盛んに行われた。
最初は、華族や明治の政治家が多かったが、売り立てによってかなりの収入が見込めることが広く伝わると、やがて寺社や旧大旗本家、さらには当時の画家や作家などが所有していた書画骨董や刀剣類を、豪華な売立目録(オークションカタログ)を印刷して広く宣伝し、次々と処分し始めた。
刀剣を多数所有して楽しんでいた夏目漱石も、彼の死後、昭和初期には夏目家による売り立てが行われて評判になっている。
▲本願寺の豪華な売立目録(大正期)
近衛家の売り立ては、1921年(大正6)に第1回目が行われているが、翌年の2回目に比べて小規模だったようだ。当時の売立目録も発見されていない。1922年(大正7)の2回目の売り立ては、いまに語りつがれるほど大規模で豪華な内容だった。売立目録も現存し、掲載された「道具」類は今日、国宝や重要文化財に指定されているものも多い。
たとえば、刀剣ページを見てみると以下のような掲載内容となっている。
主な刀剣の落札価格で、判明しているものを下記にリストアップしてみた。右には、現在の換算価格を付記してみた。おしなべて現在の刀剣価格に比べ、当時の落札価格はかなり安価だったことがわかる。おそらく、これらの品々を現在入手しようとすると、「現在の換算価格」へもうひとつゼロを追加しても、まだ足りない品もありそうだ。昭和初期、ちょうど夏目漱石の刀剣類が売り立てされたころ一大ブームがあり、刀剣価格はケタ違いに吊りあがった。
売立品目 | 落札価格(1922年) | 現在の換算価格 |
牡丹目貫金無垢造鞘牡丹蒔絵飾太刀拵 | 5,000円 | 13,500,000円 |
牡丹目貫鈖溜鞘藤蒔絵太刀 | 2,189円 | 5,910,300円 |
円一文字爲清刀 | 1,431円 | 3,863,700円 |
梨子地鳳凰蒔絵飾大刀二振 | 1,559円 | 4,209,300円 |
白鞘助宗刀 | 1,188円 | 3,207,600円 |
近衛家では、所有する道具類のほとんどを手ばなしたと思われるが、それでも負債は消えず、ついに下落合の広大な庭園を手ばなすことになる。
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