最近のいっぷく時間に。

 ・・・と昨日は言いつつ、書き出すと止まらないのが音楽のテーマなのだ。
 いつだったか、タクシーに乗っていたら「これ、いいでしょ、お客さん」と、1枚の写真を見せられた。受け取ってみると、30歳前後のタクシードライバーと椎名林檎が一緒に写っている写真。背景は、新宿あたりだろうか。思わず、「ヲヲッ!?」と声をあげてしまった。鼻梁横にあった大きな「黒子時代」の顔だから、2003年の夏より前に撮られたのだろう。そういえば、車内には「東京事変」の新曲が流れていた。どうして、わたしが林檎好きだとわかったのだろうか?
 わたしは、椎名林檎のミーハーなファンだ。1998年のシングルCD『幸福論』以来のお気に入りだ。翌年の本格的なJAZZ、カップリング曲『輪廻ハイライト』を聴いてから、60年代、新宿のライブハウスに浅川マキが出現したときと同じ衝撃波なのだと思う・・・などと、触れまわっていた。(見たのかい?) それほど、わたしにはショックだったのだ。いや、カテゴライズを拒否するように、ロックにJAZZにブルース、クラシック、ポップス、フォーク、ボサノヴァ、はては演歌や唱歌にいたるまで、あらゆる音楽ジャンルの曲を繰り出しつづける彼女のアルバムは、漠然と“コンテンポラリーミュージック”としか表現のしようがない作品が多い。
 そんな中で、いちばんのお気に入りはアルバムではなく、ライヴDVD『賣笑エクスタシー』(2003年)というのも面白い。彼女の外観は、ぜんぜんわたしの好みではないけれど、とにかく音楽が気持ちいいのだ。ロックのステージでときどき見せる、白目をむき出して表情が豹変する、まるで頭(かしら)のガブClick!のような危ない表情も好きじゃないのだが、彼女の紡ぎだすサウンドが、わたしの感覚にジャストフィットするようだ。仕事に疲れたとき、描画ポイントで行き詰ったとき(笑)、DVD『賣笑エクスタシー』をかけて音だけ聴いてたりする。
 
 『輪廻ハイライト』にみられる、最後までほんの微かに音階を外しながら、徹底して意味のないアドリブ“コトバ”でドライブする、彼女ならではのスウィング感は、もう天性のものなのだろう。モンクの半音階奏法をもじって、わたしは汎音階唱法と呼んでたりする。ストリングスをバックに、濃い4ビートJAZZを聴かせるDVD『賣笑エクスタシー』だけれど、途中で「おや、モードJAZZか?」などと思わせ、終わりが近づくとストリングスの楽団員が次々と消え、ついにはフリーイディオムへと突入していく様子は、彼女の音楽位置にぴったりなエンディングだった。
 反面、まるで50~60年代に量産された歌曲のような高木東六ばりのメロディーで、「♪わたしのなまえをお知りになりたいのでしょう?」と、意味深長な歌詞のついた「みんなのうた」(NHK)の『りんごのうた』(2003年)のような曲にも、ぞっこん惹かれてしまう。“コトバ”の音韻は音楽の一部であり、「歌詞に特に意味はない」・・・と言いつづける椎名林檎は、いまどき珍しいJAZZYな存在なのだ。凡百の女性JAZZヴォーカリストを自称する、日本のシンガーたちの大半は、おそらく彼女の足元にも及ぶまい。
 中学校すら満足に卒業していない彼女の音楽を聴くにつけ、音楽は絵画と同様、「教育」でも「勉強」でもなく、つくづく天性のものなのだと感じるしだい。

■写真上:ライヴDVD『賣笑エクスタシー』(2003年5月27日/TOBF-5275/東芝EMI)より。
■写真下は、“黒子時代”のDVD『賣笑エクスタシー』のジャケット、は、ポスト“黒子時代”のDVD+CD『りんごのうた』(2003年11月25日/TOCT-4774/東芝EMI)ジャケット。

この記事へのコメント

  • ChinchikoPapa

    こちらにも、nice!をありがとうございました。>さらまわしさん
    2014年04月13日 21:16

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